近年、空き家となった住宅をリノベーションして別の用途に転用する事例が増えています。
延べ面積200㎡以下の用途変更であれば、建築確認申請を提出する必要はありませんが、建築基準法や消防法などの法令には適合しなければなりません。
住宅を事務所や店舗、飲食店など他のものに用途を変更して利用することを検討している方は以下の内容に注意してリノベーションをしましょう。
※一般的な2階建ての戸建て住宅(延べ面積200㎡以下)を想定しています。
窓を家具や壁などで塞いでいませんか?
居室には、光を取り入れるための必要な窓の大きさが法律で決められています。
窓が塞がっていると部屋の安全性や快適性にも大きな影響を及ぼしますので、家具や部屋の間仕切りは考慮して配置しましょう。
万が一、火災などが起こったとき、窓があれば、煙を逃がすことができます。
命を守るために窓は常に開放することができるようにしておきましょう。
もっと知りたい
|
窓は採光や排煙など安全上重要な役割を持っています。また換気も重要です。
それぞれに有効な窓の面積は、居室の床面積に応じて制限があります。どの用途でも、採光は1/20以上(採光補正係数×窓の開口面積/居室床面積)、排煙は1/50以上、換気は1/20以上(窓の開口面積/居室床面積)必要です。
また、グループホーム等(寄宿舎)は住宅と同じ採光面積が必要なため、採光1/7以上(採光補正係数×窓の開口面積/居室床面積)が求められます。
窓を塞いでしまうと、停電時に真っ暗になり、避難ができず危険です。特殊建築物であれば避難ルートに非常用照明が必要かもしれません。今は電気配線工事をしなくても既存のコンセントを使って取り付けられる非常用照明があります。詳しくは建築士に相談しましょう。
【緩和があります!】
部屋に窓が足りていない状態(無窓居室)になれば非常用照明や、排煙設備、換気設備を設置したり内装を不燃材料にしたりすることでクリアできます。詳しくは建築士に相談しましょう。
【消防法令でのポイント】
消防法では窓を塞ぐと避難又は消火活動上有効な開口部として認められず、新たに消防用設備等(自動火災報知設備等)が必要となる可能性があります。
【主な関係条文】(法:建築基準法、令:建築基準法施行令)
採光及び換気:法第28条、令第19条、令第20条
シックハウス対策:法第28条の2、令第20条の4〜9、平成14年国土交通省告示第1113〜1115号
窓その他開口部を有しない居室等(無窓居室):令第116条の2
非常用照明:令第126条の4、令第126条の5、平成12年建設省告示第1411号、昭和45年建設省告示第1830号
避難又は消火活動上有効な開口部:消防法施行規則第5条の3第2項
|
火気使用室などの壁や天井は燃えにくい素材にしていますか?
リノベーションでキッチンを新設したり、薪ストーブを設置したりすると、火災のリスクが発生します。火を扱う場所の周りの壁や天井は燃えにくい材料を使いましょう。
もっと知りたい
|
燃えにくい材料とは「準不燃材料」や「不燃材料」と呼ばれるものです。一般的なものとして、
①しっくい、モルタル
②「準不燃材料」、「不燃材料」の認定を受けた内装材
③せっこうボード、鋼板、レンガ
などがあります。キッチンにガスコンロや、リビングに薪ストーブがあるとその部屋は「火気使用室」となり、部屋全体に内装制限がかかり、壁、天井の室内に面する部分を「準不燃材料」や「不燃材料」にしなければなりません。また、換気設備や住宅用火災警報器などが必要になる場合があります。
【緩和があります!】
火気使用室では内装制限がかかるため、壁、天井の室内に面する部分に一般的な木材を使用できません。ですが火気まわりを下地・仕上げともに燃えにくくすることで、火気まわり以外の部分に木材や「難燃材料」が使用でき、素材のバリエーションが増えます。(令和2年12月より、この緩和は戸建て住宅だけではなく、その他の建築物でも使えるようになりました(ただしホテルや飲食店の厨房は除く))。詳しくは建築士に相談しましょう。
【消防法令でのポイント】
コンロなどの火気は、壁や棚などの可燃物から離さなければならない距離が定められています。詳細については所轄消防署までご相談ください。
【主な関係条文】(法:建築基準法、令:建築基準法施行令)
火気使用室の内装制限:法第35条の2、令第128条の3の2、令第128条の4、令第128条の5
火気使用室の換気:法第28条、令第20条の3
準不燃材料:令第1条5号、平成12年建設省告示第1401号
不燃材料:法2条9号、令108条の2、平成12年建設省告示第1400号
難燃材料:令1条6号、平成12年建設省告示第1402号
内装制限の緩和:平成21年国土交通省告示第225号
可燃物からの離隔距離:神戸市火災予防条例第9条の2、第19条~第22条他
|
階段に手すりはついていますか?
階段は、普段の上り下りはもちろん、災害時の避難の際にも非常に重要な役割を持っています。安全のためにも必ず手すりを設置しましょう。
階段の幅や踏面(段の奥行)とけあげ(段の高さ)も、上り下りしやすい寸法になっているのかも併せて確認しましょう。
もっと知りたい
|
住宅から住宅以外の用途にする場合、けあげ・踏面など通常厳しい基準になります。
各用途の建築物で必要な階段幅、けあげ、踏面(用途を変更する場合は変更後の用途で見ます)
|
階段幅
|
けあげ
|
踏面
|
住宅
|
75cm以上
|
23cm以下
|
15cm以上
|
住宅以外
(事務所、店舗、飲食店等)
|
75cm以上
|
22cm以下
|
21cm以上
|
【緩和があります!】
リノベーションする際、下記対応をすれば、けあげ・踏面の改修が不要です。(2階以下で延べ面積200㎡未満の場合)
①階段の両側に手すりを設ける
②踏面を滑らないものにする
③安全に気を付けながら昇降するよう注意喚起する看板を設置する
【主な関係条文】(法:建築基準法、令:建築基準法施行令)
階段:法第36条、令第23条、令第24条、令第25条
緩和:平成26年国土交通省告示第709号
|
その建物はその敷地に建てられますか?
建物の敷地がある地域には、建物の利用用途が決められており、場合によっては希望の利用用途の建物が建てられない可能性があります。これは、リノベーションにも当てはまります。
計画している建物の敷地にどのような用途の建物をつくることができるのか調べておきましょう。
神戸市では「
神戸市都市計画情報」というインターネットサイトで調べることができます。不明な点があれば神戸市役所に聞いてみましょう。
もっと知りたい
|
その用途で何が建てられるか調べてみましょう
⇒「用途地域による建築物の用途制限の概要」
・用途地域によって建物の用途が制限されています。特に第一種低層住居専用地域では厳しい制限があるので注意が必要です。
・敷地が市街化調整区域内の場合は都市計画法に基づく許可が必要です。
【できる方法があるかも】
第一種低層住居専用地域でお店や事務所のみの建築は禁止されていますが、兼用住宅であれば可能になります(お住まいの一部が、事務所や日用品販売店、カフェ、美容院などで、それらが50㎡以下かつ建築物の延べ面積の2分の1以下のもの)。建築士に相談して最適な方法を探しましょう。
【主な関係条文】(法:建築基準法、令:建築基準法施行令)
用途地域:法第48条、法別表第2、令第130条の3~令第130条の9の8
|
壁や柱などの構造の安全性は確保されていますか?
大きな空間を作るために壁や柱を取り除いたら、もしかしたら建物全体の構造の安全性が確保できないことがあります。
地震などから建物を守るためにも、壁や柱を取り除く際は一度、建築士などの専門家に相談しましょう。
もっと知りたい
|
木造の建築物は地震に耐えるため、筋交いや耐震壁が必要になります。壁を撤去し、開放的な空間にする場合は耐震性に問題がないか建築士に相談しましょう。一部を撤去しても他を補強すれば間取りの変更などができることもあります。
また、昭和56年以前に建てられた住宅は現在の耐震基準を満たしていないため、リノベーションに合わせて耐震補強も検討してみましょう。
【主な関係条文】(法:建築基準法、令:建築基準法施行令)
構造:法第20条
木造:令第40条~令第49条 など
|
初期消火や火災を知らせるための設備は設置されていますか?
建築物には用途や規模によって消火器や自動火災報知設備などの設置が必要になります。たとえば、カフェやレストランではすべて、ショップやホテルなどでは延べ面積150㎡を超えるものには消火器の設置義務があります。火災時のリスクに備えた適切な設備を設置しましょう。
もっと知りたい
|
リノベーションに際しては、建築基準法だけでなく、消防法も関係してきます。下記の表以外にもさまざまありますので建築士に相談ください。
消防法令上必要な消防用設備等
用途例
|
飲食店
|
物販店
|
福祉施設
|
シェアハウス
|
ホテル
|
消火器
|
全て
※1
|
150㎡
【50㎡】
|
※2
|
150㎡
【50㎡】
|
150㎡
【50㎡】
|
自動火災報知設備
|
300㎡
|
300㎡
|
※2
|
500㎡
|
全て
|
誘導灯
|
必要
|
必要
|
必要
|
【必要】
|
必要
|
カーテン等の防炎措置
|
必要
|
必要
|
必要
|
不要
|
必要
|
・ 必要となる消防用設備等は一例です。詳細については、当該区を管轄する消防署査察係へお問い合わせください。
・ 【 】は避難上又は消防活動上有効な開口部を有しない階(無窓階という)の場合。
※1 火を使用する設備又は器具を設けたもの。
※2 詳細については当該区を管轄する消防署査察係へお問い合わせください。
● 使用開始届について
上記の建築物を使用開始する7日前までに、使用開始届を神戸市消防長へ届け出て検査を受ける必要があります。詳しくはこちら
【関係法令】(法:消防法、令:消防法施行令、規則:消防法施行規則)
消火器:令第10条
自動火災報知機:令第21条
誘導灯:令第26条
カーテン等の防炎措置:法8条の3
|